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【江戸雑学草子】 第09回

2003年10月24日

ひの、ふの、みー!いま、なんどきだい?


 江戸っ子は、今わの際にこう言ったそうだ。

 「ああ、そばに汁(つゆ)をたっぷりつけて食べてみたかった」


 ざるに盛ったそばを、箸ですくい上げ、

 その垂れたそばの端をちょっと汁にしたして、

 つるつるーっと、口に吸い込むように食べるのが

 粋なそばの食べ方らしい。


 「そば粉の香りと出汁の香りを同時に楽しめる」からと、

 ヤギ薬局の隣にあるそば屋の女将さんが話してくれた。


 なにせ、私は江戸っ子じゃないんで、

 どっぶりとそばを汁に浸してから口に運ぶ。

 香りと言われても、土瓶蒸しの松茸の香りに同じく、

 私は、匂いに敏感な方だが、楽しむまでの「香り」を感じない。

 汁をいっぱいつけなきゃ、食べた気がしないのだ。


 こういった、そばの講釈とは裏腹に、

 どうやら、昔のそばつゆは、生醤油に近く、

 とても、そばに汁をいっぱいつけていたら、辛くて食べられなかったと言
 う話も聞く。


 そもそも、そばがメニューとして歴史に登場したのは、

 寛文4年(1664)、吉原の江戸町二丁目の麺類屋仁左衛門が、一杯ず
 つ盛り切りにした「けんどんそば」が早い例とされている。

 一般化したのは、寛延(1748〜51)以降と言われるから、元禄15
 年(1702)に起きた赤穂浪士の討ち入の前に、そば屋で気勢を上げた
 などという話は、後生の作り事だ。


 「おやじ、そばを一杯くんな」と、声を掛けるのは、細長い戸棚を二つつ
 ないで担ぐ夜鷹(よたか)そばだ。

 「ひの、ふの、みー!いま、なんどきだい?」と、落語の「時蕎麦」に出
 てくるそば屋がこれで、二八そばとも言う。


 こういう、担いで待ちを売り歩く商売を「振り売り」と呼んだ。

 万治二年(1659)に幕府が許可した江戸の振り売り49種のうち、

 食べ物関係は、南蛮菓子、春米(つきまい)、麹(こうじ)、油、かつお
 ぶし、串海鼠(くしなまこ)、串鮑(くしあわび)、鮭之塩引(さけのし
 おびき)、煎茶、肴(さかな)、時々のなり物菓子、塩、味噌、醤油、豆
 腐蒟蒻(とうふこんにゃく)、ところてん、もちなど。


 まぁ、これらに限らず、物売りが路地まで入り込んで商売していたので、
 わざわざスーパーまで出かけなくても、家にいれば、回転寿司さながら用
 が足りただろう。


 そういや、今の日本橋・八重洲にも、魚屋さんや、八百屋さんが曜日を決
 めて売りに来る。

 棒で担がず、トラックだから、ハンドル売りとでもしておこう。


 話はそばに戻って、

 じゃ、その夜鷹そばにしても、火が必要なのだが、

 さて、何を使ったのか、次回のお楽しみです。

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